ホーム・スイート・ホーム

uhsh.exblog.jp
ブログトップ

カテゴリ:本( 1 )


2012年 07月 02日

「火山のふもとで」を読んで

毎月、勉強のために文芸誌を一冊買うことにしているのですが、6月は新潮7月号を買いました。絲山秋子さんの短編があったので新潮にしたのですが、新潮にて新人賞ではなくいきなりデビューなさった松家仁之さんの「火山のふもとで」650枚!という大作もあり、そんなに長いものを読む自信はなかったのですが、半身浴をしている間や、野暮用の待ち合い時間にすいすいと読んでしまいました。今回話題にしたいのは絲山さんではなく、その松家さんの作品について。
d0264719_16103331.jpg

ストーリーとしては、ライトに師事した建築家が公共建築(図書館という設定)のコンペに提出する建築を事務所員総出で軽井沢の山荘にこもって作っていき、その間にめばえた大学を出たばかりの主人公の青年の恋模様。とでも要約できるでしょうか。わたしがこのブログでご紹介したいのは、その建築、という部分がとても細やかに丁寧に描写されていて、とても読み応えがあったからです。

年代が80年代のストーリーなので、いまのようにPCひとつで簡単に、というわけにはいかず、その手作業な感じもとても気持ちがよく、昔の手作業は小説的なんだなあと思いました。
ストーリーに登場する建築家の建築のイメージ、考え方などが非常にわたし好みで、こんな作家がいたら是非家作りをお願いしたい!と思わせました。派手派手しくなく、住まい勝手を尊重し、かつ意匠がさりげないようで凝っている。まさに理想、と思えました。舞台になっている山荘というか別事務所というか、そこの住まい方も魅力的で、毎年夏になると所員総出で事務所を引っ越していくという設定なのですが、暖炉とステレオのある居間、男子棟と女子棟に別れている棟の作り方、主人公が寝床にしている書庫など、ああこんなところに住みたい、と思わせます。舞台になっている軽井沢という土地柄もかなり影響していると思いますが。軽井沢の自然がこの作品を美しく彩っているのはいなめません。

650枚という大作でしたが、とにかく読みやすかったです。端正な文章というのがふさわしいでしょうか。たとえば暖炉に火を入れるところのていねいな描写ひとつとってみても主人公のまじめで誠実な人柄がわかるし、火がついていく描写を読むだけで軽井沢の乾いた空気すら感じるようで無駄がないのです。長い作品だとどうしても無駄な部分の描写というのがでてくると思うのですが、たった一夏の物語でストーリーもどちらかというと単調なのに、冗長でなく、丁寧な描写はこの作品のテーマとも思えました。

一言でいうと、ちょっと村上春樹さん風。全然違うといえば違うのですが、主人公の性のあり方なんかが少し近いところがあるかな、と思いました。サティみたいな小説だな、というのがわたしの感想。まさに家具のような小説。気持ちよくて邪魔にならなくて、いつまでもその世界感にひたっていたい、というような。激しい感情の吐露なんかまったくない確固たる美意識に貫かれた文章。
一方で、ある意味ブルジョワの小説でもあるので、鼻白むむきもあるかと思います。しかしながらきれいな小説に逃避したいのであればぴったりな作品かも、と。朝日新聞の書評ではあまり評価されてませんでしたけど、こういう作品が必要な人は確実にいると思います。

松家さんはこれまで「考える人」の編集長をなさっていて、20歳のとき、文学界新人賞の佳作をとっていたそう。慶応の教授もなさっているとか?素晴らしい経歴ですね。単行本化も近々されると思いますので、建築家の微細を知りたい、あるいはきれいな世界にひたりたい方は是非お手にとってみるとよろしいのでは。

新潮 2012年 07月号 [雑誌]

新潮社


よろしければポチっとよろしくお願いします。
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]

by u-hsh | 2012-07-02 16:14 |